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幾つもの博士号を持ち、三十歳と云う若さでアメリカの研究所の所長を任されている彼を大学側が客員教授として呼び寄せたのが一年前。
すらりと均整の取れた体型と整った顔立ちに、当時は女子学生達が大騒ぎだった。
今でも隠れファンは大勢居るが、老教授達にも怯まず意見し、構内で笑顔を見せる事の無い彼は整った顔立ちが冷たさと威圧感を際立たせ、近寄り難い雰囲気を醸し出している所為で表立って騒ぐ女子学生は居なくなった。
「た、高柳先生っ、こんにちはっ」
「ああ、藤井君だったね。先日の論文、中々興味深かったよ」
「ほ、本当ですか?!ありがとうございます!」
滅多に物怖じしない藤井までもが緊張して標準語になっているのが何だか可笑しくて苦笑が漏れる。
軽く頭を下げた俺に向き直り、高柳先生は淡々と告げた。
「市原君。手伝って欲しいのだが。今日の講義はもう終わったのだろう?」
「はい」
深々と頭を下げる藤井に軽く頷いて歩き出した先生の後を、「コーヒーとハンカチ、ありがとな」ともう一度彼に礼を云って歩き出した。
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