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「この後、うち来るだろう?今日はバイト休みだったよな」
衣服を整え、換気扇の下で煙草に火を付け高柳先生が当然のように云った。
教授達も生徒も知らないが、よくまああの禁煙大国でやって来れたと思う位、先生は結構なヘビースモーカーだ。
先生は自らを“教授”と呼ばれる事を嫌う。
アメリカ暮らしの長い彼に云わせれば、日本での“教授”と云う言葉の持つ堅苦しさと傲慢さが堪らなく嫌らしい。
最初の講義前の挨拶で、生徒達に教授では無く“先生”と呼ぶように云い渡した。
「───んっ…」
緩慢な動きでやっと衣服を着終わり、少し乱れてしまった髪を手櫛で整えていた俺の耳朶を軽く噛んで、いつの間にか煙草を吸い終えていた先生が低く囁く。
「……必死に声を抑える君も可愛くてそそられるが、存分に乱して、……啼かせたい」
耳の中を熱い舌で舐められ、ぞくりと甘い痺れに体を震わせる俺に満足そうに笑って、先生は二本目の煙草に火を付けた。
人前で笑顔を見せる事無く表情すら余り変わらない彼を『クールビューティ』などと影で騒いでる女達に、煙草の煙を吐き出しながらくすくすと愉しそうに笑う姿を見せてやりたい。
先生は俺の前ではよく笑う。
ただその笑顔は決して明るく眩しいものなんかでは無く、子供が悪戯をする時のような、悪人が悪巧みをする時のようなものが殆どだけれど。
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