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「だってすごい音だったぞ。ギューッっていうかキューッていうか」
反射的に飛び起きた。不意に僕が体を起こしたせいでNも何事かと起き上がる。互いに視線があって束の間の沈黙。やがてこちらの胸中を察したかのようにわっとNが声を上げた。
「……マジかよ」
二人して窓の裂け目を凝視する。そして何を言うでもなくNが立ち上がるのを見て、僕も彼と窓へと近づいた。
裂け目からは相変わらず鬱蒼とした林と、そこが何とか木々の立ち並ぶ林であることがわかる程度の弱々しい月明かりが枝葉の隙間から見える夜の世界だった。
窓ガラスの表面にはやはり水平に拭ったような痕がある。さっきと痕が変わっているかどうか判断できない。
「この痕、さっきと違ってみえるか? 」
「そんな気もするけど」
裂け目から見えるガラス面に顔を近付けて、凝視する。その時――
キュウウウーーーーーーーーーーーーーーーッ
とあの音と共に上からニタニタと笑みを浮かべる、顔のひしゃげた女がガラスを擦りながら降りてきた。
それからはあまり覚えていない。Nが発した絶叫を機に形振り構わず手元にあるものを投げつけたり、棚やソファを足で窓の方へ押しやったりしたことは朧げに記憶に残ってはいる。気が付けばひっくり返したように様々なものが散乱した部屋の中で毛布を被って震えているところを、朝になって部室にやってきた先輩に発見された。
我々の様子を見て、先輩は怒るどころか、哀れみを浮かべた顔で一言、
「お前らも見たか……気の毒にな」
とだけ溜息交じりに呟いた。
あの後、僕らはすぐにサークルを抜けた。先輩たちは全く止めなかった。ただ
「くれぐれも口外しないでくれ」
とそれだけを伝えて。
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