擦る女

3/11
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 確かに日当たりも悪い上に、山の中にあるキャンパスなので湿気は酷かった。一応空調機を備えてあったし、室内はこまめに清掃してはいるのだが、それでも空気は淀んでいた。  おまけに換気をしようにも窓のあった場所はポスターに覆いつくされており、ポスターの色褪せ加減から、長いこと誰もそれに触れすらしていないようだった。  数日雨が降ったある日、流石に空調機があるとはいえ、あまりにも室内の空気が悪すぎると同学年の女の子たちが文句を言い出し、ポスターを剥がして窓を開けようとした。  ポスター自体、十年前くらいの聞いたことのないようなタイトルの映画の物で、あちこちに落書きしてあったり、上からメモやらチラシやらをコラージュのように貼り付けていたので、まさかそんなに大事なものではないだろうと思ったのだ。  だが、上級生は頑なにこれを拒んで、空気を入れ替えたいならドアを開けろと、窓に触ることを許さなかった。平和なうちのサークルにしては珍しくブーイングの嵐だったが、「虫が入ってくる」「日除けに張っているポスターだから触るな」といろいろ理由をつけられて我々新入生は渋々それを承諾したのだった。  先輩たちの言い分もわからなくもない。窓の外は鬱蒼とした山林。この辺りは虫も多く、廊下には名前のわからない大きな死骸が度々落ちている。廊下ですらこの状況なのにダイレクトに山林に面した窓を開けたくない気持ちもわかる。  しかしそれは窓を開けた時のことであって、別にポスターくらい剥がしてもいいじゃないかと、帰り道にNと愚痴を言い合った。何かを隠しているかのようなあの様子に不思議がったり、ゴキブリでも湧いているのではと突拍子もないことを言って気味悪がったりする者もいたが、次の日には誰も気にすることなく普段通りに過ごしていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!