擦る女

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 決行当日。その日も講義が終わってから部室に向かった。この頃になると人の多い時間帯は、映画そっちのけで漫画を読んだりゲームをする者、中には課題の片手間に映画を観ている者が殆どで、時々展開の変化を横目で見ながら、それを話題に取り上げて談笑していた。  そしてあっという間に陽が沈み、強制撤収の時間になった。部屋を出て皆と別れた後、僕とNは体育館に向かった。幸い残って練習している人もおらず、我々は何食わぬ顔でシャワールームへ向かい、堂々と利用した。  体育館はキャンパスの奥にあり、そこからサークル棟へ戻るには裏坂からまっすぐ通じる道を行くだけなのだが、表通りとうって変わって殺風景な裏坂への道は思ってもみない程に不気味だった。道は舗装もされているし、頼りなくぼぉっとした光とはいえ街灯も一応備わっている。とはいえこのキャンパスが山の中にあることは変わりない。住宅街の夜とは違う、独特の威圧的な空気が夜風に乗って背筋を撫でる。  流石のNも体育館を出た直後はこの空気に圧倒されていたようだったが、僕の様子を察したか「ビビってんじゃねーよ」とからかってくる。僕も気を紛らわすように彼の挑発に乗って軽口を叩きあいながら部室へと向かった。  部室に辿り着いて、明かりを点けると先程まで感じていた緊張も解けて、思わず大きく息を吐いて胸を撫で下ろした。Nに大袈裟だとからかわれるが、心なしか彼も声が上ずっていた。       冷蔵庫を開けて、昼間に買い置きしておいたコンビニの唐揚げやビールの缶を取り出し、家から持参したスナック菓子も広げ、視聴開始。  Nが借りてきた映画はどれも昼間、女の子たちがいる前では観るのを躊躇うような下品なジョークが満載の映画ばかりで、酒の酔いも手伝って僕たちは夜通し笑い続けた。あれだけ泊まり込みを禁止されているこの部室に我々二人だけが忍び込み、こうして人知れず満喫しているというスリルにも似た高揚感があったせいか、普段酒を飲まない僕もついつい酒が進んでしまう。  気が付けば二ケースあったロングサイズ缶は全部空になっていた。大して酒に強くない僕らは完全にタガが外れていた。もう映画の内容など頭に入ってこない。何でもない台詞でバカ笑いし、時々お互いにふざけて物真似してみせた。映画の中で滑稽な踊りが始まるのに合わせて、Nが調子に乗って立ち上がり踊り出す。
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