擦る女

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 しばらく眠っていたが、急に寝苦しくなって目が覚めてしまった。枕元のケータイに手を伸ばして目をこすりながらディスプレイを見る。時刻は午前二時を回ったところだった。  元々眠りの浅い方である僕は対岸のソファで寝息を立てている友人を憎らしく思いながら溜息をつき再び重力に身を預けた。一度目が覚めてから眠ろうとすると視界に入るものが乏しい故か、些細な音でも気になってしまう。先程の粗相ももう忘れてしまったかのような、Nの心地よさそうな寝息と、闇に溶けて姿の見えない壁時計のアナログな秒針音が、いやにはっきり聞こえてくる。  やがてようやく睡魔がやってきてすーっと意識が朧げになろうとしたその時。  キュッ        キュッ  と細く鳴き声のようなものがNの寝息と秒針のクロック音に紛れて聴こえた。ようやく寝入ろうとした瞬間の出来事で、先ほどの苛立ちも含めて怒りが込み上げてくるが、聞きなれないその音にやがて興味が沸き上がり、体を横たえたまま耳を澄ます。  キュッ   キュキューーッ  キュッ  法則性を持たず聞こえてくるそれは生きた何かの発する音だと直感で理解し、同時に生き物の鳴き声か何かなのだろうと結論が出る。大学構内とはいえ辺りは山に囲まれているので、ネズミやイタチがうろついているというのは時折耳にする。こうして人が寝静まってから我々が出した生ゴミを漁るのだろう。  それはそれで衛生面で如何なものかと、そんなことをぼーっと考えていると  ズズッ     ズルズルズルッ         ズズズッ  思わず肩をすくめた。擦るような引きずるような、そんな音だ。加えて妙に冴えた頭がよせばいいのに嫌なことに気付く。  音が少しづつ大きく――こちらに近付いてくる。  サークル棟の奥の部屋の方から不気味な音はゆっくりと迫っていた。そして徐々に音が近付くにつれて、それが壁の外から聞こえていることを理解する。
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