擦る女

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「お前、どうした? 」  おもむろに毛布を捲り上げられ、悲鳴を上げた僕をNが眉をひそめて不思議そうに見下ろしていた。  気付けば、さっきまで僕を苛んでいたあの音は何事もなかったように止んでいた。ばっと窓の方を向く。だが奴はどこにもいない。  Nがしばしの沈黙の後、大きなあくびをしながらうんざりとした表情で口を開いた。 「お前のせいで目ェ、覚めちまったじゃねぇか……迷惑だなぁ」 「え……? だって窓に――」  僕は必至に先程まで窓を這っていた得体の知れない何かについて説明した。が、彼の性格上やはり信じてはくれなかった。安眠を妨害されたことで機嫌が悪いのもあってか、まともに取り合ってくれない。「寝ぼけてただけだろ」と言われて口籠ってしまう。果たしてあれは夢だったのか……  いや、よそう。夢だったならそれでいい。深く追及することをやめ、迷惑をかけてすまなかったと彼に謝罪した。寝起きなこともあって終始酷いしかめっ面で向き合っていた彼だったがそれを聞くと、起きたら隣で僕がうずくまって震えてるのを見て心配したことをぼそりと伝えてくれた。  思えば僕も先刻まで彼の些細な寝息に苛立っていたことを思えば、お互いさまというべきか。  むしろこうしてこちらの身を案じてくれたことに素直に感謝する。ようやく彼の顔にも笑みが戻り、我々は再び横になる。そして、朝無事に起きれるか、もし寝過ごして先輩に見つかったら、その時はお詫びに何を奢ってもらおうか。そんな他愛もないやり取りを繰り返す。 「いやぁ、でも本当にびっくりしたわ。腹壊して漏らすんじゃないかって」 「なんでさ」 思わず笑ってしまう。Nはさらに畳みかける。
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