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いくら綺麗な遺体でも、内臓がない。起きてくるはずがないのである。
「交代だよ。」
各受付は二人一組で二班で交代制にしている。
一班は俺とあやめ。二班は、柊陽葵と婿。
陽葵が交代に来た。
俺はあやめにコーヒーをわたす。
「私が…。私が茜ちゃんを止めていたら…。」
あれからずっとあやめはこの調子だ。
「まかさ本物を引き当ててくるなんてな。」
オカルト系は大半は紛い物である。あかねもずっと騙され続けていた。
俺やあやめだけでなく、10人衆も必死で止めたのだが、愛する者を失った茜には頼るものはそれしかなかったのだろう。
今回も失敗に終わり、いつもの「またやっちゃった。てへっ。」と苦笑いする茜を思いながらだったのに…。まさかこんなに早く茜を看取ることになつてしまうとはな。
「あやめ!」おれは両手であやめの頬を叩く
「ひゃっ!」ビックリしてこっちをみる。
大きく見開かれた目。還暦を迎えてもあやめはやはり美人だ。
軽くキスをする。「んっ?」さらにビックリしている。
「もう、こんなところでなにするのよ。」いつものプンプンあやめだ。
「茜の無念を晴らすんだろ?落ち込んでいては何も始まらんぞ。」
「うん、そうだよね。そうだけどさ…。私茜ちゃんいないの寂しいよ。」大粒の涙が溢れるあやめ。
おれは指でぬぐってやる。
「友人の死を悲しんで泣くのはよい。後悔の涙は捨てるんだ。今は茜のためだけに泣きな。」
「うっ、ううっ。茜ちゃん。あかねちゃーん。うわぁーん。」
あやめは声を出して泣いた。沢山沢山泣いた。
当然参列者に聞こえてしまう。
ただ、茜とあやめの関係を知るひとは多い。テレビ業界や音楽業界は勿論、あやめだけでなく、茜もピアニストとして世界的に有名であったからだ。
至るところから嗚咽が聞こえる。あやめに釣られてしまったのだろう。
「ちょっと、あやめちゃん、なんとかしなさい。受付できないじゃん。」泣きながら陽葵がクレームをつけてきた。うん、無理だ。俺も堪えられてないから。
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