コーヒーの精

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「あの、私の寿命を十年も取るんでしょ。しっかりして下さい。マホさんは豆をこれだけしか売ってくれなかったし。でも絶対インチキだと思ったのに、本当に出るんだもん。びっくりしちゃった。そうすると私の寿命は」 「……早く。明に言って欲しい言葉は……」 「あ、そうだった」  美雪は我に返り、明が眠る部屋の方を見た。 「やっぱり、結婚してください、かな」 「では私を飲み干し、寿命を」 「あ待って。明にはそれより謝ってもらいたいかも。だって私達、三年も同棲してるんです。その間に私を誘ってくれる人もいたのに、結局今まで。大体、明は無神経なんです」  美雪が愚痴を言う間に湯気の勢いが弱まり、コーヒーの精の姿が再び薄らいだ。 「わあ消えちゃう。早くお願いしないと」  美雪は慌ててやかんの湯を沸騰させ始めた。が、その時引き戸がきしみ、開いた。 「えっ、明。もう起きたの」 「うるさい。目が覚めた。いい夢だったのに」 「ご、ごめん。どんな夢だったの」 「美人にもてる夢。畜生、本当だったらな」  美雪の表情が曇ったが、明はコーヒーの香りに目を向けた。 「あ、コーヒーじゃん。久しぶり。くれ」 そう言いながら冷蔵庫から牛乳パックを取 り出され、美雪は慌てた。「え、えっと。明のは、また後で新しいのを」 「これがいい。なあ、それ、沸いてるぜ」 美雪が慌てて火を止める間に、明はコーヒーサーバーに冷たい牛乳を注ぎ、注ぎ口から器用に飲み干した。 完
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