コーヒーの精

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 窓から朝日の入る古アパートのキッチンで、美雪がコーヒーをドリップした。 ドリッパーを外すと、サーバーから湯気と香気が一気に立ち上がり、人の横顔が揺らめき現れた。 「あ、本当に出た。あなたがコーヒーの精ですね。やだ、すっごいハンサム。私は、占い師のマホさんからコーヒー豆を買った美雪です。マホさんが、このコーヒーを飲むと、願いを叶えてくれるって……」  興奮する美雪のおしゃべりを、吐息とも聞こえる微かで穏やかな声が、遮った。 「……願いは何かな」 「あ、ええ」  美雪は目を伏せ、自分の頭をなでた。 「それは、彼から、あのう、言って欲しいの」 「……誰から、何を言って欲しいのかな」 「明から。明は私と一緒に住んでいて、今は隣の部屋で寝ています」 「では……明に……」  湯気が弱まり始め、コーヒーの精の声が小さくなった。 「えっ、何です。聞こえないんですけど」  美雪は再びやかんを火にかけ、コーヒーをドリップした。コーヒーの精は再び現れたが、先ほどよりも弱々しい印象だった。 「湯気ばかりで……香りが……弱くては」  文句を言われ、美雪は眉をひそめた。     
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