第二章 影踏み鬼子

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慧side 三枚目の壁が黒くなった途端、喜ぶ間も無く空間中に悲鳴が響き渡った。 しまった。 影の均一性が壊れた。 黒く染まった壁周辺の人々の影が、明らかに薄くなっている。 鬼は間違いなく影の濃い残りの壁の周辺を狙ってくるはず。 それなのに。 ーーなんで、黒く染まった壁際にいる人達を襲ってるんだ? 今思えば最初から、集団を中心に襲って来ていたような気もする。 影の濃い薄いは最低条件として、人数の大小も鬼の優先度に反映されているのかもしれない。 だとしたらーー 中央に怪我人を集めるのは、危険だ。 悲鳴が耳に痛い。 まずい、まずい、まずい。 こっちに来る。 運んで来た怪我人の大半は自力で動ける状態じゃない。 動けたとしても、鬼が来るまでに狙われないほど遠くへ逃げることができる怪我の程度の人はこの中にはまずいない。 僕らができる限り遠くへ運んだとしても、すぐに追いつかれるだろう。 ……無理だ。 なんで予測しなかったんだろう。 こんなの、僕が殺したも同然じゃないか。 「布を出来るだけ多く集めて!」 事態に気づいたまどかが怪我人の応急処置をしていた何人かの人に声をかけた。 鬼が来る前に壁に向かって布を一気に投げて時間稼ぎするつもりだろう。 でも、稼げる時間なんてたかが知れてる。 その方法じゃ、数十秒もったらいい方なくらいだ。 他に、方法はないだろうか。もっと時間を稼げる方法が。 ーーガシャーーン!!! 必死になって策を探していたら、遠くから少しの間止んでいた壁の壊れる音が聞こえた。
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