第二章 影踏み鬼子

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慌てて音の方向を見ると、猫目の青年が一人壁に沿って走っているのが見えた。 ーータイルを探してるのか? 鬼がいるのに。 命が、惜しくないのだろうか。 青年の存在に気がついた周囲の人が手伝いに回り始める。 再び、肉体の裂ける音が聞こえ始めた。 鬼の意識は、明らかにあちら側に向いていた。 目を背けたくなるような光景だった。 でも、背けたら死ぬ。 目の前の光景はどう見ても、もっとも時間の稼げる方法だった。 全員を黒く染まった壁まで運んでいくのは不可能だ。 でも“集団”を崩す時間はある。 ーー今のうちに、一人でも多く移動させよう。 そう思っていた、が。 青年のいる壁付近にいた人のほとんどは、ほんの数秒も経たないうちに鬼によって惨殺されてしまった。 「嘘でしょ…」 誰かの声が聞こえた。 ーーーッ!!! 「まどか!!その布全部貸して!!」 「い、いいけど、なんに使うつもりなの!?」 「怪我人をよろしく!」 「ちょっと!!」 気がついたら、僕は壁に向かって走り出していた。 僕を止めようとするまどかの叫び声が聞こえる。 鬼が、タイルを探している人たちの方へ向かっていくのが見えた。 壁の色を全部黒く染めて光源をなくすということは、つまりは鬼を影で覆い尽くすということ。 一瞬でいい、鬼の動きを止められたら。 少しでも、誰かを救うことにつながるだろうか。
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