第二章 影踏み鬼子

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意志とは裏腹に、反射的に目を瞑った。 しかし思っていた衝撃は襲ってくることなく、代わりに聞き覚えのある癖の強い声が張り裂けそうな激しい感情を乗せて僕の耳に届いてきた。 「何死に急いでんだクソガキ!!立て!!!」 ハッとして目を開けると、視界に飛び込んできたのは大量の布と影を見失って動きを止めた鬼の姿だった。 ーーああ、僕は。 最後の力を振り絞り立ち上がる。僕がその場を離れると同時に鬼は金棒を勢いよく振り下ろし、生じた風と共に周囲の布が吹き飛んだ。 ーー安心した。 声の主と思われる人物が壁に向かって布を投げ続ける。 ーーブン!! ーーガシャァァンン!!! 鬼の注意は完全に僕から遠のいてしまった。 ーー死を決心した筈なのに。 僕はただただ呆然と、その光景を見つめていた。 ーーーズン! 猫目の青年がタイルを見つけ出し2枚目の壁が黒く染まるまでずっと。 ただひとつ想定外だったのは ーーーズン! それと数秒も経たないうちに3枚目の壁まで黒く染まり、あっという間に残りの壁が1枚になったことだった。
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