母の記憶

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「それもあるが、1番大事な基準がある。  別れる時、後腐れが無い事だ。  それでいけば、オマエはひどく面倒くさそうだ」  勝ち誇ったように笑う彼は、やっぱりとても意地悪だ。  私はその場で、下唇を噛み締めた。   なんということだろう。  一瞬で恋に落ち、一瞬でフラれた。  しかし不思議と悲しみは沸いてこなかった。  ただ、ただ悔しい。  一体それが、何に対してなのか分からないまま、私はそれを彼にぶつけた。 「そんな……そんなのってやっぱりオカシイ。別れるのが前提のお付き合いなんて。  やっぱり貴方は “ホンモノ” を見つけられないでいるんです。  でも私は、なんて言われようとも、ずーーっと好きでいますからねっ!」 「な、なんだと……」  ガバッとベッドから起き上がり、私を捕まえようとした彼の手から逃げ、私は部屋を飛び出した。  勢いのまま、長い廊下を全速力で走り出す。  悔し涙が止まらない。 「あれ? やあ、美咲ちゃんじゃない…?」  途中で将馬様とスレ違ったが、今は彼を気遣う余裕はない。私は彼には気付かなかったフリをして、夢中で廊下を駆け抜けた。   「ふうん……」
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