ファースト・キス

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ファースト・キス

 3月____  我々使用人は、明後日に執り行われる、『藤城グループ総帥 藤城弥一郎 生誕70周年記念式典』(要はお誕生日会)  の準備に追われていた。  この春から、ずっと中東に行ったきりだったご当主様の久々のご帰国に加え、各界からVIPが集まるパーティとあって、お屋敷内は騒然としていた。 「はあぁぁ…」  今私は、大食堂に繋がるキッチンに立っている。  目の前に積まれた沢山の銀の大皿、これをピカピカに磨き上げるよう、アサダさんから仰せつかったのだ。  目視だけでも100枚はありそうなそれを、1枚1枚丹念に磨きながら、私は大きなため息をついた。    あの、衝撃のコクハクから2ヵ月、藤城課長と私の間に変わったコトは何もなく、前と変わらない主従関係を続けている。  ちょっと変わったことと言えば、時たま会社で課長と目が合った時、思わせ振りにとニヤッと意地悪く笑ってくるくらい。  顔に出やすいと言われる私は、皆にバレやしないかと、いつもハラハラしてるっていうのに…  それを知っていて、反応を見て楽しんでいるのだ。  …悔しい。
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