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程なく、定刻を告げるアナウンスが流れると、会場全体が厳粛な静寂に包まれた。
今朝、中東から帰国したばかりの藤城弥一郎が壇上に上がると、人の表情にピリッと緊張が走る。
周囲に大勢の配下が控えさせ、車イス上にあっても自信に満ちて精力的な様は、威厳と風格にみちていた。
車イスの後ろにいるのが、レイカ嬢のお母さんだろうか。背が高く、彫りの深い顔立ちが彼女とそっくりだ。
マイクは使わず、70を越えているとは思えないほどよく通る声で弥一郎は挨拶をした。
「この度は……」
この御方が藤城課長のオイディプス・スコンプレックスの権化、弥一郎総帥。
なるほど、頑固そうな顔つきや尊大な喋り口調は、あくまでアクが強くて個性的。
顔立ちこそ良く似ているが、藤城課長のように、どこか繊細な雰囲気は微塵もない…
そんなことを考えていた時だった。
「あ…」
弥一郎の紹介とともに、昨日から姿を見せなかった藤城課長が壇上へと現れた。
私の事、気づくかな?
小さく手を振ってはみたが、ステージと席は離れすぎている。
隣席の客が不審そうに見ているのに気付き、私は慌ててそれを止めた。
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