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それから先は、あまりよく覚えていない。
時は過ぎて、時刻は8時。
主役の弥一郎が退席した後も、会場では歓談が続いていた。
不思議なもので、私が『藤城レイカ』としてボンヤリ座っているだけで、話しかけてくる男の人が後を絶たない。
けれど。
もし私が、ただのメイド『四葉美咲』と分かったなら、彼らの態度はガラリと変わるんじゃなかろうか。
要は名前と肩書きだけ___
将馬様やレイカ嬢が出席を嫌がる気持ちは、何となく分からなくもない。
アサダさん達はまだ忙しげに立ち働いている。
私には、やっぱり向こうが似合ってる。
レイカ様に、こんなに可愛くして貰っても……
私と藤城課長とは、やっぱり世界が違うんだ。
どことなく気落ちしたまま、さっきからしきりに自慢話を続けている馬鹿げた蝶ネクタイの男から、逃げるように席を立った。
会場をぬけて庭園へ出ると、夜風が酒気に当てられた火照りをほどよく冷ましてくれる。
気持ちいい…な。
と、不意に後ろから声がした。
「オマエ……四葉?」
「カチョー!」
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