ファースト・キス

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 ややあって。 「あの…ご婚約。おめでとうございます」 私は少し寂しい気持ちでそれを言った。 「ああ、その事か。  前々から決まっていた事だ、別にめでたくも何ともない。どうした?ブスッとして、ブスが益々悪化する…イテっ」 「…嘘つき」 「あ?」  酔って、大胆になっていることもある。私は拗ねたように唇を尖らせ、足下の小石をコツンと蹴った。 「『遊んでる』だなんて。  そんな風じゃないお嬢様じゃないですか。いくら自分を自己正当化したいからって」  「何だよ、俺は別にそんなつもりじゃ…」  つまらなそうに返事をした後、 「そうでもないぜ。見ろよ」  ふとあらぬ方向に目を向けた彼が、月明かりの庭の木立を指差した。 「あれは?」  彼の指した方向、薄暗い木立の中に目を凝らすと、人の影が2つ。 「京極のお嬢さんと、その付き添いさ。 ………見てろ」  と、向こうもこちらに気が付いたのか、私達の方を向いた気がした。  小さな影は例のお嬢様の方だろうか。急いで離れようとした大きな方を掴まえた。  そして……  影が重なった。 「う、うわ……」  思わず私は目を見開いた。  2つの影は、ゆっくりと見せつけるように形を変え、何度も重なり続けている。  藤城課長は、せせら笑うようにそれを眺めているばかり。  瞳には何の感情も宿していない。
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