弟の誘惑

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弟の誘惑

 ヒドイよ課長、あんまりです…  気持ちがもう、ぐちゃぐちゃだ。    まざまざと見せつけられた住む世界の格差に婚約者、極めつけには当て付けに奪われたファースト・キス。  御主人サマにちょっと優しくされたからって、舞い上がった“シモベ” の勘違い。    笑っちゃう、  『アイを教える』  だなんて。よくもまあ言えたもの。  あの時感じたシンパシーは、何かの間違いだったんだ。  あんなヒトと、何もかもが違う別世界の住人と、交わる接点なんて最初から何もなかったのに。  恥ずかしくって、情けない______    私が居なくなってももう、見咎める人はないだろう。  トボトボとボロ屋に帰りゆく。  途中で靴を落としたようで、片方裸足で歩いたら、足に怪我までしてしまった。  惨めだ……    林を抜けると、私の部屋にポツリと明かりが付いている。  あれ、出るとき消し忘れたかな?今日は何かと忙しかったから…  思いながら戸を開けると、玄関に男ものの靴が乱雑に投げてある。  それを見て私は “ああ” と納得した。
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