弟の誘惑

2/10
前へ
/283ページ
次へ
「やあ、お邪魔してるよ」  「将馬サマ!」  コタツに寝転がって寛いでいた将馬様は、私の姿を見つけると、ニコッと笑って手を振った。  やっぱりな、あの蛍光色のクロックスは間違いない。  全くもう、兄弟揃ってこの人達は。  私は慌てて涙を拭った。   「…あのねえ。仮にもオトメの部屋で、寛がないで下さいよ。アサダさんがずっと探してましたよ?」 「アッハッハ。  だからさ、ここは盲点だろ?  それよりも、どうしたの?随分とヒドイ有様だけど」  ビクッ。  身体が自然に強張った。  そんな私に彼は穏やかに微笑むと、 「……聞こうか?  僕で良ければだけど」  首を少し傾げながら、優しく訊ねた。  今一番欲しい言葉が、原因の張本人と同じ顔から流れ出る。  2人の顔が重なって_______ 「う、う、うわーーーーん!!」  一旦は引いた悲しみが、再び波のように襲いかかってきた。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4704人が本棚に入れています
本棚に追加