弟の誘惑

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 変なところに感心していたところに、彼は何気なく呟いた。 「……返してやろうか、その借金」 「エ…今、なんて?」  思わず聞き返した私に、彼はニコニコしながら言った。 「だから『返してあげようか』って。 僕ならそれくらい、すぐに払ってあげられるよ?」 「でで、でも1500万円ですよ!  それって家のおカネでしょ。  藤城課長だって……許さないに決まってます」  私は慌てて否定した。  そう、ウマイ話を簡単に信じてはいけないことを、私はイヤというほど学んだ筈だ。  すると彼は “いいや” と首を横に振った。 「兄にしたらさ。  僕への手切れの捨て金が、自分の手元に戻ってくるんだし?  アイツのことだ、きっと喜ぶさ」 「ほ、本当……に?」 「ああ、必要ないんだ、大金なんて。 風来坊の暮らしにはね」  彼の目が、ふとつまらなそうに宙を見つめた。  本当に…自由に…なれる。  藤城貴彪の支配から逃れるのは、これまで私の悲願だった。  私の首に嵌められた見えない枷が、柔和に微笑む救世主、将馬様に外されようとしている_____  彼の後ろから、神々しい後光が射して見えた。  が、次の刹那。   「そのかわりさ、僕と付き合ってよ」
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