君を抱く

1/15
前へ
/283ページ
次へ

君を抱く

「藤城…かちょ…お」 「あれ?兄さん」  彼は荒々しくドアを蹴り上げると、 「どけ!」 「わっ!」  私の上にいた彼を、力の限り突き飛ばした。  ガターンッ。  彼の身体が宙を飛び、壁にぶつかる痛そうな音がする。 「ここから出ていけっ」  凄まじい怒りの形相で、起き上がろうする将馬の前に仁王立ちする藤城課長。    恐怖を感じた私は、四つ這いで部屋の隅に逃げ込んだ。 「いった…乱暴だなぁ。  失敬だよ?レディの部屋に無言で入ってくるなんて」  いや、それはアナタもですが… 「コイツに…何かやったのか」  軽口を無視し、瞳には怒りを湛えたまま、彼は将馬の方をじっと睨み付けている。  オマエと馴れ合うつもりはないのだと、怒りに満ちた表情で。 「えー、見りゃわかるだろ?  これからしようとしたところだけど。  どうしたんだい?  必死じゃないか、珍しく」  ふざけた口調で、さっきと変わらずへらへらしている将馬。  だがその目は笑ってはおらず、言葉には強い毒を含んでいた。 「コイツは……俺のものだ」 「はあ?」  彼は首を傾げて見せ、それから私を振り返った。 「だってさ、美咲チャン。  よく言うよ。金で縛って、いいように利用しといてさ。  な、これで分かったろ、こいつがどんなヤツなのか。君がどれだけ嫌な思いをしてきたか、サッパリ分かってないんだぜ?」 「きっ…さまぁっ」  逆上した藤城課長は、今にも将馬に殴りかかろうとした。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4704人が本棚に入れています
本棚に追加