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そして____
ゾッとした。
彼は、あのパーティの日と同じ目で私を見ていた。
婚約者とお付きの男との口づけを、嘲るように冷ややかに眺めていた時と同じ瞳で、藤城課長はじっと私を観察している。
(止めとけよ、不幸になるぞ…あんなやつ)
「!」
私にだけ、聞こえるか聞こえないかの低い囁きが、左の耳に響いた。
背中に冷たい感覚が走る。
私は香河さんに抱かれたまま、二人の間で固まってしまって動けない。
やがて、藤城課長は私達からフイッと顔を背けると、立ち上がってどこかに行ってしまった。
「も、もぉ~、止めて下さいよ香河さん」
「…え?…ああ、ゴメンゴメン。
ちょっと…酔ってたみたいだ」
視線の呪縛から解き放たれ、私はやっと冗談混じりに彼の胸を突き放すことができた。
“ゴメンなさいっ、四葉チャン”
彼はフザケて両手を併せ、また皆とわいわいし始める。
周囲は、何も無かったかのように元の騒ぎへと戻っていった……
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