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「い、やだなあ、あんなの冗談じゃないですかぁ。
香河さん、ちょいと飲みすぎてましたからね~。
まさか、あれしきでヤキモチ妬いちゃったとか?いや、まっさかね~、百戦錬磨のカチョーがそんな訳……」
何とか誤魔化そうとした私を、彼は真顔のままじっと見つめた。
金色の瞳に、微かに苛立ちがちらついた。
「四葉、嘘を吐くな。
香河のあの様子は……何かあったんだろう」
彼もまた、香河先輩の挑む視線に気がついていたらしい。
私は息を呑んだ。
幼い頃から書物に学び、周囲を巻き込む相続争いを経験し、難しいビジネスをこなす彼は、嘘と本当を直ぐに見分ける。
浅はかな嘘は通用しない。
結局私は、昼間の出来事を洗いざらい白状せざるを得なかった。
「…ふ、ん……」
彼は立ち上がると、さっき私がいた窓辺に佇んだ。
広すぎるソファの上にちんまりと取り残された私は、そこに固まったままでいる。
やがて彼は私を振り返り、こっちへ来いと目で合図した。
私は恐る恐る、彼の傍らに立った。
“叱られる” そう思った矢先……
彼は、私の頭にポンと掌を置いた。
「香河と居るときのお前は…とても楽しそうだった」
「?」
私は思わず顔を上げた。
「俺と居るときは、いつも怯えたような顔をするのに、だ」
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