藤城課長の嫉妬心

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彼が私に向き合った。 長い指が震えながら、私の右頬を覆った。 「俺が、怖いか?」 …怖くないと言えば、全く嘘になる。 だが、私は首を振った。 「俺が、嫌いか?」  同じように左頬を覆う。 「…それは…」  嫌いなわけはない。  だが、私は口ごもった。  真っ直ぐに見つめた瞳は真剣そのもの、そこに怒りや憎悪はないが…  質問の意図が読み取れない。  と、彼は焦ったように早口で 「香河の前ではそんな顔はしなかった。もっと嬉しそうに笑っていた」  エ……  まさか不機嫌の原因って……それ?  なあんだ。   思わず笑いが込み上げる。  これをどう答えたらいいものか。  悩んだ挙げ句、私は的を得ない答えを返した。 「す、好きです。言いましたよね、私はずっと大好き……私は貴方が」  香河さんではなく、貴方が。  すると彼は、じっと私を見つめてこう言った。  「示せ」  「は?」 「証拠を見せろ」  目が疑念を孕んでいる。 「俺を愛せ……俺がいつもするように」  言うところを理解をした私は、固まった。 「むむ、無茶を言わないで下さいよ…」 「やり方は……教えた筈だ」  目が全く笑っていない。  これは、ご主人様のご命令。シモベ四葉は、逆らえない。
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