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さらに、私の憂いはもうひとつある。
小さなベッドに隣り合わせに、彼が嬉々として教えてくれたコト。
彼は1年後くらいには、本社の専務に昇格し、グループ経営に加わることが決まっているそうだ。
そこで経験を積み、2、3年後には結婚して、父親の会長就任とともに、実質グループ全ての頂点に立つという。
「それからだ」
腕を天井に向かって伸ばし、力強くギュッと拳を握る彼。
彼の溢れんばかりの鋭気に対し、それを聞いた私の心は複雑だった。
その時の私は、一体どうなっているのだろう……
と。
不安な気持ちが顔に出ていたのか、彼は柔らかに目を細めると、慈しむように私を抱き締めた。
「心配するな、お前はずっと俺の側にいればいい。
誰にも文句は言わせない」
「そ…そうですよね~。
借金を払い終えないとね~」
フザケ気味に返してみる。
彼は驚いて目を見開いた。
「借金?
そんなもの、忘れていた。
おい、あれはもう返さなくてもいいぞ。
契約書だって返してやるし、使用人も止めていい」
「そ…そういう訳にはいきませんよ!」
私はつい、大声を張り上げた。
「?」
私の剣幕に、不思議そうに目をしばたかせた彼。
「あ、いえ…何でも」
私は慌てて布団を被ると、何もなかったように彼の胸に収まった。
だってね。
あれは御守り、免罪符。
例え貴方が私に冷めてしまっても、
結婚しても
遠くに行ってしまっても
貴方の側にいられますように、と。
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