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私の真っ当な反論に、暫くの間ドアの前に留まって、躊躇していた彼だったが。
やがて意を決したように、静かな口調で私に告げた。
スウッと深呼吸を一つ。
「……弱った父に会うのが」
「え?」
「怖い」
こわ……い?
藤城課長が…そんな。
一瞬、聞いてはならないコトを聞いた気がした。
私に背を向けたままでいるから、表情は伺い知れないが。
いつも自信に満ちているはずの藤城課長の大きな背中が、今夜は確かに、未知の恐怖に脅えている。
「だから。
……俺に付いてきてくれないか」
かつてないことだった。
彼が他人に、しかも私に “頼みごと” をするなんて。
私はゴクリと唾を飲んだ。
「わ……かりました」
辛うじて声になった6文字だけを発音する。
「……よし、会社の方は何とかする」
心持ち弾んだ声を残して、彼は足早で私の部屋を去っていった。
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