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それから数時間後にはもう、私達は空の上にいた。
これから飛行機で半日かけて、イスタンブールへと向かう。
これからのことに思いを巡らせているのだろうか、移動中、彼は殆んど何も話さなかった。
重たい空気の中、私からも敢えて彼に話し掛けることはしない。
半日を黙りこんだまま、私達を乗せた飛行機は空港へと着陸した。
エントランスを抜けると、地中海の、ジリジリと照りつける太陽の下、黒塗りのリンカーンが待機していた。
その前に立つ、これまた真っ黒なスーツの男が、彼の姿を見つけ、丁寧に辞儀をする。
「お久しゅうございます、貴彪様。
…おや?そちらの女性(かた)は?」
チラリと投げられた慇懃な視線を、彼は私の前に立って遮った。
「後藤田、余計なコトだ。
それよりも父の具合はどうなんだ?」
「これはご無礼を…
さ、まずはお車へ」
ドアに手を添え、私達を後部座席に案内すると、自分は助手席に乗り込んで、運転手にゴーサインを与える。
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