チチキトク

10/20
前へ
/283ページ
次へ
 サヨリさんは、彼の父親のパートナーだ。  何だか悪いことをしている気がして、私はモジモジと下を向いた。  が、彼女はそれ以上、その話題に触れようとはしなかった。  その代わりに、娘のレイカさんのことをしきりに訊ねられた。 「あなた、あのワガママな娘と仲良くしてくれてるのね。あの子元気でやってるかしら?  あなたに迷惑かけてやしない?  真面目に…はしてないでしょうね」 「あー、イエ。そんなことは…ないですよ」  所々言葉を濁しながら、レイカさんの近況を話してやると、彼女は心底ホッとしているようだった。 「私……あの子に嫌われちゃったから」  最後にポツリと言った横顔に、私から掛けられる言葉はなかった。   …………  結局彼はその日戻らず、夕刻、ホテルマンが私を迎えに来てくれた。  窓からエスニックなお城が見える、これまたお城みたいに豪華なホテル。  『丁重に』  藤城課長が一言告げただけで、私はまるでお姫様みたいな扱いだった。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4705人が本棚に入れています
本棚に追加