4706人が本棚に入れています
本棚に追加
「ついて、いく……かぁ」
病院からホテルまではさほど遠くない。
昼間はジリジリと照りつけていた太陽も、今は白い町を優しい朱にそめている。
トロトロと物思いに耽りつつ、独り歩きをしていると、爽やかな潮風がサッと路面を吹き抜けた。
大事なものを犠牲にしてさえ、想いを貫くヒトがいる……
そうか、ならば私だって。
彼を想う気持ちだけなら、誰にも負けない自信がある。
私だってサヨリさんのように、例え何があっても、ずっと彼のそばにいるんだ。
地中海の、情熱のエトスに煽られて、彼女の話はいつしか、私と課長の世にも素敵なロマンスに転換されていった。
そう。
彼はスルタン、私はスードラ。
それでも2人が愛し合っているならば。
格差に中傷、婚約者、もしかすると、彼の浮気。
例えどんな試練が私を阻んでも、
きっと愛を貫くわ______
私はいやに満ち足りた気分で、軽快なステップを踏みながら、浮かれ気分でホテルのエントランスを通り抜けた。
だってその時の私はまだ、
ざっくばらんな言葉の裏に隠された、彼女の罪の意識の深さに、気づくことが出来ないでいたから___
最初のコメントを投稿しよう!