チチキトク

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「ついて、いく……かぁ」  病院からホテルまではさほど遠くない。  昼間はジリジリと照りつけていた太陽も、今は白い町を優しい朱にそめている。  トロトロと物思いに耽りつつ、独り歩きをしていると、爽やかな潮風がサッと路面を吹き抜けた。  大事なものを犠牲にしてさえ、想いを貫くヒトがいる……  そうか、ならば私だって。  彼を想う気持ちだけなら、誰にも負けない自信がある。  私だってサヨリさんのように、例え何があっても、ずっと彼のそばにいるんだ。  地中海の、情熱のエトスに煽られて、彼女の話はいつしか、私と課長の世にも素敵なロマンスに転換されていった。  そう。  彼はスルタン、私はスードラ。 それでも2人が愛し合っているならば。  格差に中傷、婚約者、もしかすると、彼の浮気。  例えどんな試練が私を阻んでも、  きっと愛を貫くわ______  私はいやに満ち足りた気分で、軽快なステップを踏みながら、浮かれ気分でホテルのエントランスを通り抜けた。  だってその時の私はまだ、  ざっくばらんな言葉の裏に隠された、彼女の罪の意識の深さに、気づくことが出来ないでいたから___
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