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「やり忘れって…これのことかよ」
苦り切った顔で彼は私に問うた。
「はい。
だって四葉は、その為に貴方に付いてきたんですから」
十数分後、私達は再びあの病室にいた。
病状が安定したため、サヨリさんももう、夜にはホテルに帰っている。
彼は初日以降、1度も病室を訪れていなかった。
つまり、まともに父親に対面した時間は、あの時の10分程度にすぎないのだ。
“それじゃあいけない”
という、これは私の自己満足。
私は彼に、マトモな親子の対面を体験してもらいたかったのだ。
「どうせまだ意識は戻らないんだ。こんなのは時間の無駄…」
しかし彼は、ベッドをチラッと見ただけで、そそくさと帰ろうとしている。
私はその手をグイッと引っ張った。
「何だよ、2日も寝てないんだそ?
俺は早く休みたいんだ」
イライラと声を荒げた彼に、私は静かにこう告げた。
「ちゃんと見て。
ここに寝ているのは貴方の…たった一人の“お父ちゃん” なんですよ?」
「意味が分からん…」
ブツブツ言う彼を無視し、私は続けた。
「ね、あなたに似てると思いませんか?
キリッとした口元や、気難しそうな眉間の皺。彫りの深い顔つきは…
なかなかのオトコマエさんです」
「どこが!」
フンと向こうを向いてしまった彼の視線を追いかけて、私はぐるりと回り込んだ。
2、3度それを繰り返すうち、彼は仕方なく病床に目を向けた。
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