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「もう俺は “カチョー”じゃない。
いいかげんに、名前で呼んでくれないか」
「えー…」
慣れない呼び方がモノすごく恥ずかしかったから、何度も誤魔化してきたのだが……
俯いて、モジモジと手遊びを始めた私の視線を逃がすまいと、彼はじっと覗きこんだ。
「た、タカトラさん…は呼びにくいな…トラさんでいいですか?」
「…ステテコ姿のオジサンみたいでイヤだ」
「タカさんでは?」
「芸人みたいだ……普通がいい」
「た、タカトラさん…かあ」
モゴモゴと口ごもりながらもファーストネームを口にすると、彼は、これまで見たことのないくらいの満面の笑みを浮かべた。
そして、はにかむ私に向き直ると、改まって姿勢を正した。
「よし、なら言うぞ。
美咲………ずっと傍にいて欲しい。離れたくないんだ。
お前のおかげで…やっと分かった気がするんだ、 “愛してる” って言葉の意味が」
「カチョ……た、タカトラさん」
あの彼の口から、こんな言葉を聞ける日が来るなんて!
まじまじと彼を見つめた私に彼は照れくさそうに微笑んだ。
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