課長の正体

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 二の句が継げないでいる私の肩をトントン叩きながら、彼は機嫌良くのたまった。 「いや~、丁度良かった。  今年、住込みのバーさんが引退しちまって、困ってたトコだったんだ」 「……あの~、参考までにお聞きしますが。 私に選択権は…」 「ない。 『全て任せる』と誓ったろう?それに、もう契約もしたし」  彼は先ほどの紙をペラリと見せた。  ん? 『私、 [四葉美咲] は上司 藤城貴彪に1500万円の債務を負うものとし、その金額の全てを返済する間、使用人として仕えることを約束します』   「ひ……ヒキョーな、いつの間に!」  私のささやかな抗議は、彼の豪快な笑いによって掻き消された。 「ハハハ。次からはサインするときは気を付けるんだな。  考えてみろ。  オマエ俺が上司で良かったぞ。  風俗いかなくて済んだ上、住むとこに仕事、返済計画まで世話してやろうってんだから。  『四葉美咲』ラッキーネームのチカラだな」  そりゃまあ、確かに…そうデスど…  ことのほか上機嫌な彼は、半ば放心状態の私の頭をワシワシと撫でた。  それからニッと口角を上げ、私にそれを告げたのだ。 「四葉ぁ。  今からオマエは俺の下僕(しもべ)だ。 家でも職場でも、みっちりこき使ってやるからな。 覚悟しとけ」 「な…」 「俺に、全幅の忠誠を誓うがいい」  見下ろす瞳に残酷な光を宿し、彼は冷たく微笑んだ。  この日私は  悪魔とケイヤクをしてしまった___  
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