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「ありがちなのさ、女中ってのは。
男にしたら、一番近くで長い時間を過ごすんだ。着替えから何から全部を任せっきりで、その上何でも我儘を聞いてくれて…
何より…心が寂しい時、必ず手の届く位置にいる。
…旦那様も、大旦那様もそうだった」
「旦那様って、弥一郎様?
もしかしてそれは…お母さん、ですか?
タカトラさんの!?」
すかさず訊いた私に、お婆ちゃんは一瞬しまったという顔をした。
だが、私の顔を見ると、やがて決意したように語りはじめた。
「……弥一郎も同じさ。
“愛している” そう言ってね、貴彪の母が欲しいと駄々をこねたんだ……
将馬の母と結婚が決まってたのにね。
その挙げ句、2人とも子供を置いて消えなければならなくなった」
「どうして?」
「藤城の家格と財産には、色んな思惑が絡むんだ。大旦那様の時代には、母子で命を奪われた者もいたんだよ」
「いのち……」
「貴彪の母親はお前と同じ、住み込みで働いてた娘だよ。身寄りのない、可哀想な子でね。
アサダがちょっとだけ知ってるよ」
貴彪さんのお母さんは、 “お婆ちゃんの娘” ではなかった。彼の予想は外れていたようだ。
考えていた時、お婆ちゃんはとんでもない事実を口走った。
「あの娘(コ)は、貴彪が生まれて直ぐにここを出ていった。
……私がそうさせたんだ」
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