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が、お婆ちゃんはとても澄んだ眼差しで、じっと私を見つめていた。
そうしてきっぱりと告げた。
「ねえお前。私には一人の味方が出来ないんだ。
弥一郎も貴彪も、将馬もレイカも…その母親や、使用人、皆ぜーんぶ、可愛いから。
貴彪の為に本気で泣いてくれる、オマエさんだって可愛い。
…色々見てきてしまったからね。
皆が上手く収まるためには、誰か我慢しなくちゃならない。その中で、一番強い誰かがねぇ」
澄んだ瞳から、しわくちゃの頬に一滴の涙が零れ落ちた。
「真っ直ぐな目をしたオマエなら、きっと分かってくれるだろう。
貴彪も、京極の娘も、根は本当に優しい子だ。
今は互いに別の方を向いていても、いつかはきっと上手くいく。
いいか?
これだけはハッキリ言わせてもらうよ。
あるべき所に皆が収まれないとしたら、こじらせる原因はオマエだ。
どちらにも子供が出来てみな?
貴彪や将馬とまた同じ苦しみを味わせることになるんだよ?
貴彪は、弥一郎と同じことをしようとしてる。
悪い連鎖は……
どこかで断ち切らなくっちゃダメだ」
反論の余地はない。
とうとう私は項垂れた。
「…一つだけ……教えて?
彼のお母ちゃんは、今でも…生きて…いますか?」
お婆ちゃんは深いため息を吐いた。
「今は別の家庭を持って、幸せに暮らしているよ。
だからもう、そっとしてやっておいてくれないか」
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