雨に打たれて

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 黒のベンツは屋敷の前で私を降ろし、彼とはそこで別れた。  先ほどの電話で、急な案件が入ったそうだ。  “すまない”  私に両手をあわせると、彼はそのまま、訪問先へと向かっていった。    いつしか空はどんよりと鉛色に、屋敷林は白く霞んで、冷たい秋雨に包まれていた。  彼に渡された傘を差すのも忘れ、木立の中をトボトボとゆく。  雨水を含んだ落ち葉が、ペトリとブーツに張りついた。 「クゥン…」  とうとう途中で座り込んでしまった私に、ドーベルマンが一匹近づき、涙と雨に濡れた頬をペロッと舐めてくれた。 「大丈夫だよ、ありがとね…」  そのコの頭を撫でてやると、いつまでも尻尾を振って、ペロペロと顔を舐め続けている。  うっ、ナマグサイ……  けど、慰めてくれてるんだろう。  いつの間にやら私の心は、晩秋の冷たい霧雨の中に迷いこんでしまったようだった。  もう、あまり時間はない。  彼の結婚式までに、  私は未来を  決めなくてはならない。
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