チチカエル

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 私に気を使ってか、彼は何も言わないが…  今日は結納の式だったんだ。    イマドキ “結納” だなんて、とは思うけど由緒正しい家柄だから、そういったセレモニーはかっちりとやるみたい。  今日はきっと、あの可憐なお姫様とニッコリ笑ってお写真とったりしたんだろう…    モヤモヤと、黒い何かが胸を襲う。  ダメだな、私は。  二人が仲良くなることは、いいことの筈なのに……  ボンヤリしていたら、彼が急に声を上げた。 「いっ!」    どうやら私、気づかないうちにギュウッと彼の背筋をつねってしまっていたらしい。 「もっと優しくしろっ」 「あ、スイマセン…」  怒る彼に恥じ入る私。  しかし彼は、 「まあ、いいや」  あっさり怒りをしずめると、私を背に乗せたまま、クルリと寝返りを打った。 「うわっ」  彼の上で、バランスを崩しかけた私の腰を掴み、自分の大腿に乗せ替える。 「こ、こらっ」  思わず拳を振り上げた私に、彼はニッコリと笑いかけると、突拍子もないことを言い出した。  「そうだ。  オマエを来年、俺の秘書に異動させるからな」
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