チチカエル

7/17
前へ
/283ページ
次へ
 …そうよ、私は妬いてる。  いつか言わなきゃ、頭では分かってる筈なのに。  今、こんなことをして、見えない恋敵(てき)に、優越感を感じているの。    ここは二人だけの大事な場所よ?  息、声、味、匂い、感触も。二人だけで共有して、混ざり合って融け合っていくのを、互いの五感で感じ取るための。   お願いだから、ここに入ってこないでと。  ねえ、貴方もそうでしょう?  本当は不安なんでしょう?  だからそうやって、どちらも壊れちゃいそうなほど繋がろうとしてるんでしょう?  あーあ。  御主人様のせいで、シモベ四葉はとうとうこんなになっちゃいましたよ?  御主人のくれる恋に、もうズブズブに嵌まっちゃった、独占欲でいっぱいの、嫉妬深いエゴイストの、こんなに醜(みにく)い女の子に。 「…っ…美…咲?」  その夜、私はぐっとオシリを突き上げると、彼を更に奥まで誘った。    深夜___    少年のように無邪気な顔で眠っている彼を眺めるのは、精一杯愛し合った後、私だけに許された特典。  だけど今は、その表情(かお)を眺めることが、少し辛い。  少し前まで猜疑心でいっぱいだった彼が、私の前でだけ、こんなに無防備な素顔を見せてくれているというのに…  幸せそうな彼の寝顔に  私は今夜も眠れない。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4706人が本棚に入れています
本棚に追加