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今朝は、自分のワンルームから出社する最後の日だった。
引っ越しの準備は何もしていない。
昨夜、課長からそう言われているからだ。
何でも、私が出社している間に引っ越し屋さんが全てを終わらせてくれるんだとか。
カネの力はオソロシイ。
で、私自身といえば、終業後に藤城課長が一緒に連れて帰ってくれることになっている。
なのでさっきから、定時過ぎてから藤城課長をひたすら待っているのだが……
彼、午後8時を越えた今も、まだ出先から戻らない。
この時間になるともう、先輩方も帰ってしまい、とうとう一人になってしまった。
だだっ広い部屋に、自分の近くだけ光る蛍光灯。薄暗くしんとした職場は、少し不気味で淋しい。
「あ~、遅いっ!」
待ちくたびれた私が、伸びをしながら叫んだ時。
「あれえ?四葉サン、残業?」
声を掛けてくれたのは、同課の香河紀文(コウガ ノリフミ)先輩だった。
もう帰ったんだと思っていたが、仲の良い他部の2人と連れ立っているところを見ると、これからゴハンにでも行くのかもしれない。
「え、ええまあ…」
先輩は不思議そうに首を傾げた。
そりゃあそうだろう。
残業しなければ終わらない仕事など、私にはまだあるはずがないのだから。
私は慌てて言い直した。
「あの、ちょっと自分なりに勉強ナドをしております、ハイ」
「ふうん…」
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