ドS王子の結婚式

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 _________ 『なあ、美咲。  父ちゃん今、現場のヤツから誘われててな。  『地元帰って漁師やるから、行くとこないなら来るか』ってさ。  お父ちゃん、ちょっと落ち着いたら一人で行ってみようと思ってたんだけど。  そういうことなら……親子で一緒に、暮らせねえかな』  あの日、ようやく泣き止んだ私に父が告げたその言葉に甘える事にした。  一端別れると決めたならば、どの道彼がトップとなる今の会社には居られまい。  彼は以前、私を秘書に異動させると言っていた。  彼の事だ、やると言えば強引にやってのけるだろうから。  傲岸な彼にも、総帥の地位の継承はさすがにプレッシャーなんだろう。  逢える時は格段に少なくなっていたが、前にも増して彼は私に甘えてくるようになっていた。    子供みたいな無邪気な信頼。    何度も名前を呼びながら、まるで壊れ物にでも触れるように、丁寧に私を愛してくれる。 「美咲、美咲…」  その度に私は  『彼をなるたけ傷つけず、前向きに別れる方法』。  そればかりを考えた。  彼の寵を一身に受け、私は笑みさえうかべながら、静かに静かに、逃げる準備を整える……  
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