ドS王子の結婚式

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 このひと月、いっぱいいっぱい考えた。  彼への気持ちを思い付く限りにまとめ、やっと苦手な文章にして、2枚の便箋にしたためた。  繊細な心を持つ彼だから、最初は傷つくかもしれない。  私が黙って消えたこと、またもや信頼を裏切られたのかと、きっと怒ってしまうだろう。  だからこんな小手先技では全く無駄かも知れないけれど。  何度も何度も書き直して、照らいのない本心だけを、一字一句綴ったつもりだ。  繊細で聡明な彼ならば、いつかきっと分かってくれる日が来ると信じて。  出発の日を式の当日にして、最後まで見届けさせてもらったのは、ひとえに私の我儘だ。  花嫁には申し訳ないけれど、最後の一夜、ヒトの物になってしまう直前まで、一日一刻でも長く、彼の愛を受けていたかった。  私達の最後の夜は、いつものボロ部屋、狭いシングルベッドの上。  薄い毛布に身を寄せ合って、手だけを繋いで静かに眠った。
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