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「四葉ァーーーーー!!」
にわかに感じた、後頭部への衝撃と轟音で、私は “はっ” と顔をあげた。
「ひえっっ、オニ…じゃなかった。
カチョー!!」
ユメだったのか。
しかも本人を前にして、とんでもないことを口走ってしまったような……
恐る恐る目を合わせると、藤城課長は不機嫌そのものの顔で(マサに鬼の形相だ!)私をジロリと一瞥した。
「誰がオニだ。
…ったく、呑気に涎垂らして寝てやがって」
私は慌てて口を拭った。
「おい。
手枷足枷にムチってさ。お前、そういうのが趣味なら、してやってもいいんだぞ?」
「ひえっ。めめ、滅相もごさまいませんっ」
あの表情(かお)、本当にされかねない。
失言を誤魔化すべく、私は慌てて話題を変えた。
「しかしカチョー、随分と遅かったんですね。商談が長引いたんですか?」
「ああ、随分と譲ったつもりだが、先方がなかなか渋くてな。…また改めて接待しないとならんだろう」
藤城課長はフーッと溜息を吐いた。顔色も悪く、声色にも疲れが見えている。
「タイヘンなんですね…」
「まあ、いつものコトだ」
あまり考えたことはなかったが。
課長はこれまでも、皆が帰った後、この真っ暗な部屋に課帰ることがあったのだろうか……
だとしたら、少し気の毒な気もする___
さて。
すっかり遅くなってしまったが、課長と一緒帰るのを見咎められないのはありがたい。
私が準備している間、課長は普段禁煙の課内で、こっそりと一服していた。
頃合いを見計らい、私が席を立ち上がると、彼は携帯灰皿に吸い殻をしまった。
「さあ…行こうか」
「ハイ」
ハンドバッグを握りしめ、課長に続く私は一路、今夜からの棲家を目指す___
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