課長のお屋敷

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 地下鉄とバスを乗り継いで、およそ1時間。  連れられて来たお屋敷の門の前で、うっとりとそれを見上げた。 「ウワ~~、スッゴい! ザ・お屋敷って感じですね~」  我々の立つ外門からはまだ遠くに見えるのは、まるで西洋のお城のよう。  大正のロマン溢れる “旧家” というに相応しい洋館が、宵闇の中にライトアップされ、高い樹木の間から2階のテラスを覗かせている。  だが、彼は吐き捨てるように言った。 「フン。古いばかりさ、こんな家。  俺が当主になったら、すぐにぶっ壊して最新式の住宅に変えてやる」 「ふええ…」  どうやら彼は、古色蒼然たる旧家の風情があまり好みではないらしい。  言われてみれば確かに、闇夜に浮かぶ蔦の絡まる洋館は、不気味なゴーストハウスにも見える。  古い外門に取り付けられた機械に課長がカードを翳すと、カチリと音がして、キイイといやな音をさせながら戸が開いた。  月夜に白く光っている大理石の歩道を歩きながら、課長がニヤリと私を振り返った。 「あ、そうそう。  放し飼いのドーベルマンが3匹いるから気を付けて。  噛まれたら洒落にならんからな」
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