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「ひえっ」
私は思わず、課長の背中にしがみついた。そういえばさっきから、暗闇に妙な唸り声が……
「ちなみにソイツらの散歩とエサやり、明日からお前の仕事だからな」
「そ、そんなぁ」
情けない声の返事に、楽しそうに課長は笑う。
イジワル!
にしても、門から玄関までの道のなんと長いことだろう。
真っ直ぐ“お城”に向かうものと思っていた藤城課長は、途中で広い道を逸れ、林の小路を歩き始めた。
「あれ?課長。今からオウチに向かうのでは?」
「ああ、お前のトコはこっちだから。
さあ、着いた。そこだ」
「………」
鬱蒼と繁る庭木の中、課長が示した先を見て私は慄然とした。
それは、昭和何年に建てられたんだと言うような木造平屋、文字通りの “掘っ立て小屋” だ。
“城” たる母家を背景(バック)に、この格差はどういうコトだ…
「どうした、入るぞ?」
彼は別段気にする風もなく、唖然と口を開けたまま、固まっている私を引きずっていった。
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