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「か、カチョー。それって私の…」
おフトンなんですが。
「ああ、悪い。そうだったな」
彼はのんびりと起き上がった。
あまり頓着しないのは、お坊っちゃん育ちのためだろうか。
「あと、バスとトイレは母家にしかないから。今日はもういいよな?」
……まじっすか。
「それじゃ、明日以降の詳しいことは、通いのメイドに聞いてくれ」
それだけいうと藤城課長は、
“やれやれ、手のかかるヤツだ“
などと嘯きながら、去っていった。
静まり返るボロ屋に、私は一人取り残された。
それでもなんとか着替えを済ませ、倒れるようにベッドに仰向けると、
「うあーーっ、疲れたあっ」
体の奥から叫びが沸いてくる。
寒々としたボロ天井。フロなしトイレなし雨漏りアリ。
私ってば、なんてトコロに転落してしまったのだろう。
……ミジメだ。
それでも落ち着く先が決まり、慣れたフトンにくるまれば、不思議と気分はリラックスする。
ともかくも、今日はやっと休める。
眠気がどっと襲いかかった。
泥のような眠りに落ちていくなか、私は頭の片隅でふと考えた。
離れでも、オウチのニオイというのは同じなのかな。それともさっきここに転がっていたからなのか。
ここは不思議と……藤城課長のカオリがする。
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