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『それからね、あともう一人』
オオガミさんは、クイックルワイパーを握る人指し指を1本立てた。
『貴彪様の弟さんがいるらしいんですけど、私は1度もお会いしたことないんですよね』
『エ、それって…
何かの怪奇現象とか?』
こないだレイトショーで見たばかりの『青髭男爵』を思い浮かべ、私はブルッと身を震わせた。
このお屋敷にあのカチョー、何かが起こりそうな気がしなくもない。
『ノンノン、そうじゃなくてね…』
彼女は、人差し指を左右に振って苦笑いした。
彼女の話によると、その弟は2年ほど前に何か問題を起こし、フラりと家を出たきりなんだそう。
『ショウマ様はね。小さい頃からそれはお優しい方でしたの。ワタクシ達使用人にもそれはそれは親切で…』
話し込んでいたところに、アサダさんがぬっと割り込んできた。
慌てて手を動かしているふりをしたら、彼女はどうやら弟君のファンらしく、それからは延々昔話が炸裂した。
だけど私はそれを半分ほど聞き流し、別のコトを考えていた。
そっかあ。
ってことは課長、今はこんなデッカイお屋敷にほぼ1人で暮らしているんだなあ。
私をあーんなボロ屋に押し込めておいて、なんてゼイタクなんだろう。
でも、あれ?
家族構成、何か1つ足らないような…
心に奇妙な引っ掛かりを覚えながらも、その時の私は、アサダさんのいつまでも終わらない話に相槌を打っていた。
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