4702人が本棚に入れています
本棚に追加
/283ページ
バックミラーをチラッと覗くと、腹立たしいことに彼は、大袈裟に頭を抱えている。
シツレイな、それを言うならこっちの方だ!
朝イチで半裸の男に抱きつかれ(コイツは何故か、いつも上半身ハダカで寝ている)、チューされそうになったオトメの身にもなって欲しい。
朝の弱い課長に、間違いで手籠めにされるなんて、冗談じゃない!
まあ、寝惚け眼だったとはいえ、美しいお顔で迫られた時には、少しドキリとしてしまったが…
その光景を思い出し、プルッと震えた私に、彼はケロリと言ってのけた。
「まあ安心しろ。車は一般社員は入れないようなトコロに入れるから。
気になるのなら、出勤時間もずらしてやろう」
「…左様で」
高飛車に言うと、彼は長い足を優雅に組んで再び窓の外の渋滞を眺め始めた。
「しかしカチョー、どうして今日は車なんです?」
いつも地下鉄・バスなのに、いったいどういう風の吹き回しだろう。
「ああ、今夜はちょっと……難しい接待があってな。
クルマでのお迎えが先方の望みなんだ」
「って事は………私も?」
「そう、今日は1日運転手。
ヨロシク頼むぞ」
ううっ、聞くんじゃなかった。
どうやら今日は、長い1日になりそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!