4702人が本棚に入れています
本棚に追加
/283ページ
終業後。
私は課長よりひと足先に、VIP専用駐車場のクルマの中で待っていた。
ほどなく藤城課長がやってきて、丸の内に向けて発進する。
「でも、カチョーが1人で接待なんて……珍しくないですか?」
信号待ちの手持ちぶさたに、ふと気になったコトを尋ねると、
「今日のは別口。
藤城の、親父の代理としての接待だ。課の部下は使えない」
彼は、ことのほか憂鬱そうに返事をした。
「ほぇ~、天下の藤城にでも、ヘリクだらないといけない相手があるんですねぇ」
「俺たちは商人だ。
士農工商で言えば一番下。カネでどうにもならない部分を、カネでどうにかしなくちゃならない」
「ホー……」
サッパリ分からないけど、まるで時代劇みたいだ。さしずめお相手は “お代官サマ” といったところだろうか。
ふと、昨日見ていたテレビのコントを思い出し、プッと吹き出していると、彼はもう一度重たい口調で呟いた。
「失敗は……赦されない」
……そっかあ。
若(バカ)殿様も、意外と大変なのかも知れない。
最初のコメントを投稿しよう!