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その時。
私を助けてくれたのは “藤城課長”ではなかった。
その場を仕切っていたベテランの女の子が、サッと私達の間に割り込むと、彼はサッと手を引いた。
「あら、美咲ちゃんだったっけ。
やだぁ、顔色悪いわよ。
気分悪いのね?トイレはあっちよ。ちょっとリオちゃ~ん、連れてったげて」
「ハーイ」
すぐ横を通りすぎた女の子が、呼ばれてこちらへ引き返してきた。
(ホラ、はやく行きなさい)
彼女は“センセエ” の目を盗み、涙目の私にソッと耳打ちした。
“リオちゃん” に引っ張られ、私はようやく席を立つことができた。
「ダメだよあんた、もっと上手くやんなくちゃさ」
トイレの個室で、“リオちゃん” はフーッと煙草の煙を吐いた。
「…はい」
トイレの蓋に座らされ、私はやっと返事を返す。
「しかしトラちゃん、何でアンタみたいな子、連れてきたかなあ…
アイツはさ、私らの間じゃ性質悪いんで有名なんだ。
大人しい若いコ苛めるのが、大好きなんだよね。
アンタ、彼の何だか知らないけど。
あんまりメイワクかけちゃダメだよぉ。
トラちゃんは、タイヘンなんだからねぇ」
「…ハ…イ……」「も~ヤダぁ、泣かないでったら」
恐ろしさと悔しさに震える私を、口の悪いリオちゃんは、それでも優しく撫でてくれた。
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