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「じゃあここで」
深夜1時。
ようやく散会することになり、我々は店の前で挨拶を交わしていた。
ギリギリまでトイレに隠れていた私は、藤城課長の背中に隠れ、ほっと安堵の息を吐いた。
“センセエ” 達は店の女の子を伴って、次のところに行くそうだ。
よくやるよ、全く。
見えないようにこっそりと、ヤツに向かってイッと顔を歪めてやる。
しかし。
「よかったら君も…一緒に…どう?」
またもや “センセエ” は私に執拗な目を向けてきた。
よ、よくないよ…
縋るように課長を見上げると、彼は困ったように視線を彷徨わせた。
「え…っと」
答えに窮しているようだ。
「藤城くん!」
バーコードが苛々した声をあげた。
「彼女は…そいつは…」
課長は答えに迷っている。
そうか、彼は断れないんだ。
彼にとってはきっと、私が進んで『行きます』と言うことが、一番ありがたいにちがいない。
だけど…
身体がどうしてもそれを拒否している。
声が出ない。
しん、と静まる場の空気が、気まずさをさらに加速させた。
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